dd50ee70’s blog

計算機科学を中心によしなしごとを

正規表現と有限オートマトン(その3) 決定性、非決定性

他のテーマがいくつか挟まり間が開きましたが、有限オートマトンの続きです。

 前回*1紹介したのは、今の状態と入力に対し次の状態がただ一つ決まる有限オートマトンでした。これを決定性有限オートマトンと言います。これに対し、次の状態が二つ以上ある、あるいは一つもないように拡張した、非決定性有限オートマトンがあります。例を示しましょう。「最初がa、次にabが好きなだけ続き(一つもなくても良い)、最後は必ずbで終わる」記号列の集まりを考えます。正規表現 a(a+b)*b で表される記号列の集まりでもあります。この特徴を「素直に」状態遷移図に表現すると

非決定性オートマトンの例

こんな状態遷移図ができます。最初のaは見たままですね。状態q1に来て次の入力もbなら行き先がq1q2の二通りあります。これが非決定性です。この例では「最初がa」←→ q0 から q1への遷移、「abが好きなだけ続く」←→ q1の所にあるループ、「最後は必ずbで終わる」←→ q1からq2への遷移かつq2はただ一つの受理状態、と対応しています。状態遷移図の特徴と受理する記号列の特徴がよく一致し、正規表現ともよく対応していることに注意しましょう。

 このように非決定性を導入すると物事が単純に表現できることがよくあります。しかしながら、コンピュータは決定的に動作します。ある命令をある条件下で実行すると結果(計算結果と次に実行する命令)は一つです。その時々で異なる結果が出ると困ります。幸い有限オートマトンの世界では決定性と非決定性に能力の違いがないことがわかっています。つまり、非決定性有限オートマトンが受理できる記号列の集合を受理する(状態遷移図は違うが)決定性有限オートマトンがあるということです。ここで決定性・非決定性に関するよくある疑問を、この例に即していくつか挙げていきます。

  1. 質問: いきなりbが入力されるとどうなるか。
    回答: 初期状態q0から入力bで行き先がないので、次の状態はありません。この入力は受理されません。
  2. 質問: 今の状態がq2 で入力がaだとどうなるか。
    回答: 入力a (bでも)行き先がないので次の状態はない。ただし、初期状態から今の状態がq2だけという様相に至ることはなく、必ずq1q2になっているので、入力aでは次の状態はq1になります。
  3. 質問: abaと入力されると一度受理状態に行っているが受理しないのか。
    回答: 入力が終了した時受理状態にいるかどうかで判定します。上で述べた通りこの場合はq1にいるので受理しません。

非決定性有限オートマトンを決定性に変換するアルゴリズムは「オートマトン」が書名にある本なら必ずでていますからここでは省略します。上の例では

最初はa、次にaかbが幾つでも、最後はbの記号列を受理する決定性有限オートマトン

の状態遷移図で表されるオートマトンになります。決定性にすると「abが任意回続く」ことや「最後が必ずbで終わる」ことがわかりにくいかもしれません。また、q2は失敗状態になり、ひとたびq2に行くと抜け出すことができません。それでは決定性と非決定性の動きの違いを解説した動画へのリンクを貼ります。

youtu.be

*1:2024年8月7日

AI時代、今まで通りの教育でいいの、2. 英語だぜ

 2010年ごろまでは機械翻訳といえば笑ってしまう迷訳を連発していました。ところが今の生成AIによる機械翻訳や英文生成支援は実用に耐える域に来ています。私も英語の電子メールを読むときはメールソフトが勝手に翻訳しているのを、見出しを流し読みするときはそのままで、内容をしっかり読む必要が出ると元の英文に戻して、と「流れの中」で使っています。また、英文を書くときは、エディタが綴りの間違い、前置詞など文法的間違いや不適切な表現を指摘してくれ、慣用句は予測して候補を出してくれるので、大変重宝しています。プロの翻訳家でも機械翻訳で下訳を作り、あとブラッシュアップすると効率が上がると言います。

 こうなってくると昔英語の試験で「下線部と同じ発音(アクセント)の単語を選べ」「最も相応しい前置詞を選べ」「同じ意味になる語句を選べ」などという問題に散々苦労したのが馬鹿馬鹿しくなります。ひょっとして今の学生も同じ苦労をしているのか、だったらなんという若いエネルギーの無駄遣い、英語教育を根本的に見直すときではありませんか。英米文学の研究者、言語学研究者を除く大多数の人にとっては英語は道具です。これまではその道具を身につけるために多くの時間と労力を使って技能を身につけていました。それが機械翻訳という自動化技術により簡単に使えるようになったのです。技術の進歩により自動化できるようになれば、従来の人力を消耗する方法は置き換えられる、これは文明史の常識。

 とはいってもラテン文字とキリル文字の区別もつかない状態で機械翻訳を頼りにコミュニケーションはできないでしょう。誰でも機械翻訳を安心して使いこなすだけの基礎知識は必要でしょう。わたしが愚考するところを述べてみると

  1. 小学校の英語はなくて良いが、どうしてでもやりたいのなら、機械翻訳を使った異文化理解として、機械翻訳と英語に慣れることを目標にする。
  2. 中学・高校では文法を一通り学習する。機械翻訳が作る日本語・英語の対応の裏にある仕組みを理解する。
  3. 大学入試では文学部、外国語学部を除き、英語の試験は廃止。
  4. 大学の教養教育に相当する部分では機械翻訳も補助に使い、異文化理解・交流の授業を設ける。専門ではその分野の英文資料読解や英語での発表を、機械翻訳を活用して積極的に行う。

英語の専門家、通訳、翻訳家、文学・言語学研究者、を養成するときは 3, 4 はそれ相応に変わります。英会話教室の存在意義は? 機械に頼らず自分の口と耳で会話したい方にはおすすめか? 海外旅行や土産物店での定型文を喋ってくれる翻訳機は実用になっています。

 AI時代になり英語教育を大いに見直すべきなのですが、当の英語教育関係者の関心は低いようです。まあ、積極的に声を上げると自分で自分の首を絞める結果になるから当然でしょうか*1。しかしながら、「英語でコミュニケーションができない」という強迫観念に駆られて、英語教育に無駄な時間と労力を費やすのはやめなければなりません。多くの人が実情を理解して改革を指向するようになることを期待します。

*1:つまり英語教師は大幅リストラです。

AI時代、今まで通りの教育でいいの 1. 計算機科学

 情報処理学会の会誌「情報処理」2025年11月号の巻頭言に和田英一先生が「計算機科学の終焉」というショッキングな記事を書かれている。それを受けて2026年1月号の同じく巻頭言に会長の萩谷昌己先生が「計算機科学は永遠」と真逆の意見を述べられている。どちらもオープンアクセスだからご自由にお読みください

 この二つの記事をもとに、わたしなりに計算機関連の教育について書いてみます。まず、計算機科学は数学のようになっていくと思います。関連する人: 一般人、教師、研究者、こうなります。これまでは(他の工学と同じく)一般人、技術者、研究者でした。技術者の多くはさまざまな分野で計算機を使えるようプログラムを作っていました。今は便利な出来合いのプログラムがどの分野にも用意されています。独自の仕様に合わせたいときもAIがカスタマイズプログラムを作ってくれます。和田先生が書かれたように、プログラムの裏にある計算機科学の成果を知らなくても応用分野の人だけで計算機利用ができるのです。ほとんどの機械・装置に高度な数学の成果が使われているが、そんな数学を知らなくても*1使う分には全く差し支えないのと一緒です。一方、高校に「情報」の教科ができ、共通テストでも出題される。教師の出番です*2。計算機科学は永遠と思いますが、計算機技術者はヤバイかもしれません*3

 そこで大学・専門学校の計算機教育を見直します。これまでの計算機科学専門教育では、計算機科学科は少数派で情報システムや情報科学といった名称が多いのですが、そのような大学・専門学校の学部・学科は変わらなくて良いのでしょうか。各応用分野向けのプログラムを作ってあげて「こんな課題ができました、あんな問題が解決しました」といって論文を書いていたのが従来派の情報科学でした。これは和田先生が書かれた通り終焉の危機にあります。一方、(0) 仕様から完璧なプログラムを自動生成する、(1) 外部から絶対に侵入できないシステムを構築する*4*5、計算機科学のコアな課題は萩谷先生が書かれた通りまだまだあるので計算機科学科は必要です。応用プログラム開発技術者養成学科の転進先は情報教員養成学科でしょうか。

 というふうに計算機・情報科学関連の学部・学科、人材養成を取り巻く環境の変革が著しいのに、ひと昔かふた昔前の「IT人材養成」をうたっていていいのか。アメリカではプログラマを中心にIT技術者のリストラが進んでいるのに。現状は能天気というか危機感が足りないと思います。

 では、大学・専門学校の情報系学部・学科はどうなるか。計算機・情報科学の先端研究ができるところはそのまま、研究者と高度な(セキュリティ、OS・コンパイラなど)技術者養成です。応用プログラム技術者養成学科は教員養成を主眼にするか、消えるか。数学より情報学の方が必要な教員数は少ないことをお忘れなく。

*1:GPSは特殊・一般相対性理論を取り入れた球面幾何学によって動いているけど、そんなん知らなくても使えるよね。

*2:計算機のイロハくらいは知らないとうまく動作しない時やセキュリティ上の脅威に対処できないから、計算機リテラシーを高校・大学一般教育レベルで身につけることは必要。

*3:情報セキュリティの専門家、0S・コンパイラの開発者など当分の間必須の技術者もいます。

*4:人間がからむセキュリティに「絶対」はないのですが、量子暗号は原理的に盗聴できません。量子コンピュータの応用でできるかもしれません。

*5:他に計算量の問題など長年の未解決問題解決、生成AI以外の人工知能はあるのか、開発できるのか、制御に関して危険はないのか、など課題はたくさんある。

フェルミのパラドックス、結局どうなの

 さて、長々と続けてきましたが、フェルミパラドックスについて私の考えは、技術文明が進化するのは非常に稀なことであり、天の川銀河では今現在地球だけ、となります。これはフィルタ説に入るでしょう。色々な説がある中であまり面白くない方かなと思います。すみません。「日経サイエンス」2020年10月号に「地球人の孤独フェルミパラドックス」という特集記事がありますからご参考まで。その中には恒星間航行できる文明がいくつかあっても、文明の継続時間や居住可能惑星の数などのパラメタを変えてシミュレーションすると、他の文明と接触しない孤立した星が出るのは普通にある。という研究も紹介されています。これだとどこかに宇宙人がいると期待を繋ぐことができますね。

 この話題は、今のところ再現性のない事象を扱っていますからどうしても推測主体になります。せめて地球外生命が見つかれば事実に基づいた考察が進むのですが*1。これまでのプログでは地球上の生命の進化を主な根拠として議論を進めてきました。最後に地球外生命がもしいたとしても、やっぱりダーウィン的な進化をすることを指摘しておきます。「何らかの資源を使って自己増幅する」を生命の定義としましょう*2。増殖効率が良いグループが全体に占める割合が増えてゆきます。それとともにそのグループが資源をより多く使うようになります。効率の良いグループが増えてゆき、そうでないものは衰退する生存競争が起きるわけです。「増殖効率が良い」と一言で言いますが、実際には環境や他の自己増殖主体との関わりにより、さまざまな条件が発生するでしょう。進化は盲目的で行き当たりばったり、偶然に支配されます。なかなか起こりそうにない偶然が積み重なって初めて知的生命が誕生する、これが言いたいことでした。

*1:生命の発生について共通する普遍的法則を論じることができる。

*2:生命の定義で多くの人の意見が一致するものはない。

フェルミのパラドックス、これからぶつかる壁‼️

 人類のこれまでの宇宙技術はとてもとても恒星間飛行まで行っていません。

 太陽系を出た探査機*1ボイジャー1号と2号*2だけ、有人飛行は月に行っただけ、寂しいものです。で、問題は今後順調に文明が進み、恒星間飛行技術を発展させられるか、それとも本当の壁が待ち構えていて、文明が崩壊するのかにあります。うまくいかないとしたら思い当たるフシはたくさんあります。戦争、特に核戦争、致命的温暖化、致命的パンデミック、食糧不足、人口爆発、人口減少による活力低下、文化的対立による社会崩壊、人工知能の反乱、などなどなど。

 最後の人工知能については、今話題の人工知能についてはあまり心配要りません。今のAIは人類の知識を、質問された課題に沿ってそつなくまとめていると言って良いです。だから、よっぽど変なことをしない限り、人類にとって代わろうなどとは考えません。もっとも、鉤十字のちょび髭や鎌とハンマーのヨシフ君*3のような独裁者の言動をもっぱら学習させて、「絶滅収容所の運用法は」なんて質問をしたら、AI君も何やらかすかわかりません。だからAI開発や利用の倫理、安全性はおろそかにしてはいけません。

 もし、将来独自の意識、目的、衝動、感情などを持って自律的に行動する超知能が出現すると、人類抹殺などというSF的事態が現実になるかもしれません。しかし、そう言った拡張的超知能さんなら宇宙征服に乗り出すでしょうから、恒星間文明の「壁」ではありません。技術文明の段階まで来れば恒星間航行技術に到達する後継者ができるのですから。

 上の書いた「思い当たるフシ」は人類の叡智を結集し、適切にAIも活用すれば克服することができると信じたい。しかし、その叡智に翳りがあるという指摘があります*4。その論旨を箇条書きすると

  1. 知能は8割がた遺伝で決まる。
  2. 知能が高ければ収入、社会的地位で有利になる。
  3. 産業革命以前は高知能の上位の社会階層が多くの子供を残すことができ、その結果知能が高い子孫が増えていった。
  4. 産業革命により生産力が飛躍的に伸び、やや遅れて社会福祉が普及したことにより、それまで子孫の数が少なかった知能の低い階層でも多くの子供を残せるようになった。一方、高知能の階層では子孫を残すよりやりがいのあることを見つけて(特に女性)、子孫の数が減った。
  5. その結果、知能向上の歴史的流れが逆転し、知能低下が始まった。

と言ったところです。こういう主張は不快に感じられる方もいらっしゃるとは思いますが、私には基本的に納得できる話です。西洋社会ばかり例に取っているとか、進化で群淘汰を採用しているとか、いちゃもんをつけたいところはあります。しかしながら、知能低下の証拠もぼつぼつ出てきているようです。ということで、これから突き当たる「壁」として真剣に考慮すべき問題だと考えられます。知能低下は仕方がないとしても、上に述べた現代社会の諸問題を解決できない事態になれば、社会の崩壊につながります。天才的な人物が少なくなっても、誰もが賢く振る舞うよう心がけるようになればなんとか対応できるのではないでしょうか。

*1:太陽風と星間物質の圧力が平衡するヘリオポーズより外へいった。

*2:イオニア10号, 11号も星間空間へ行ったはずですが、通信不能により今どこにいるかは不明。冥王星を探査したニューホライズンズは太陽系外へ向け爆速で飛んでいます。

*3:ヒトラースターリンです

*4:「知能低下の人類史 忍び寄る現代文明クライシス」エドワード・ダットン、マイケル・A・ウドリー・オブ・メニー著、蔵 研也訳 春秋社 ISBN 978-4-393-33238-2

フェルミのパラドックス、高度な認知能力(言語、推論、予見など)

 かつては知的な活動ができるの動物は人間だけと、特に西欧社会では宗教的背景もあって、確信されていました。今は、動物にもあんなことができるこんなことができると、動物の賢さを示す実験・観察が目白押しになっています。道具を使う、チンパンジーが石を使ってヤシの実を割っている。道具を作る、チンパンジーが細い枝の葉をすべてむしってシロアリ釣りに使う。群の仲間を識別し、状況に応じたシグナル、鳴き声、動作などによりコミュニケーションする、チンパンジーもそうだし、イルカなども。数を数える、チンパンジーのほか、有名なヨウムのアレックス君もそう。鏡を見て自分だとわかる。キリがないのでこれくらい。こうなってくると人類に特有の知的能力は何かという質問に答えるのが難しくなるほどです。

 とは言っても、抽象的概念を表現できる言語、世界の動きを説明するモデル*1を使い因果関係を説明する、推論に基づいて将来を予見する能力などは今も人類特有と考えられています。そう言った能力を基盤に技術文明が発達したと思われます。

 さて、技術文明につながる高度な認知能力は一度しか進化しなかったのか。最近の研究ではネアンデルタール人もいいところに行っていたと見られています。しかし、ネアンデルタール人は人類で、現代人(ホモ・サピエンス)との共通祖先が高度な認知能力を持っていたか、ホモ・サピエンスに影響されて能力が発達した可能性があるから、これは「一度」に入ります。別の問い方をすると、過去に人類以外の技術文明があったとしたらそれを見つけることができるか考えます。どのくらいの技術がどのくらい前にあったかにより話は異なります。

 核分裂原子炉を実現する技術があったのなら、まず確実にその痕跡を地質学者が見つけられます。核分裂をすると高レベル廃棄物が出ます。いずれ地層に埋設処理するでしょう。その跡地を百万年後に掘ると、テクネチウム99が検出されます*2テクネチウムは自然に存在しない放射性元素なので、「人」工的産物であることが明らかです。一億年後になるとテクネチウムは全て崩壊してありません。しかし、「跡形」は残ります。ルテニウム99が、ジルコニウム90、バリウム137*3とセットで出てきたら、核分裂生成物の成れの果て確定です。このように原子力を使える文明の痕跡は大昔でも確実に検出できるでしょう。その証拠が見つかっていないので、地球では現在が最初の原子力文明といえます。

 一方石器は当てになりません。チンパンジーもヤシの実わりのために石を加工しますから、加工された石器らしきものが出土してもそれだけで技術文明の証拠にはなりません。

 では、金属器はどうでしょう。金や白金の器物はどれだけ時間が経っても残るでしょう。問題は自然物ではないと判定できる特徴を見つけられるかです。まあ、注意深く調べればわかるんじゃないでしょうか*4。鉄製品は錆びるからせいぜい数千年の寿命ではないでしょうか。銀や銅は硫化水素などと反応はしますが、結構持つでしょう。金属製錬ができる技術文明も人類以前にはなかったと言って良いでしょう。そして、金属の精錬・加工には高度な技術が必要なことを合わせれば、人類以外の技術文明はなかったと言えます。

 まとめると、技術文明につながる高度な認知能力の進化はこれまで一回だけ。しかし、賢い動物が色々いることを合わせると、ハードルの高さは二つ星⭐︎⭐︎でしょうか。

*1:昔は神話や宗教、今は科学です

*2:ストロンチウム90やセシウム137など放射線が強い厄介者は完全になくなっています

*3:それぞれ、テクネチウム99、ストロンチウム90、セシウム137の崩壊生成物

*4:無責任だけど実例がないのだからしょうがない

フェルミのパラドックス、陸上へ進出

 宇宙旅行の技術を持つ知的生命は必ず、どこかの時点で上陸しなくてはいけません。キッパリ。推測だらけのこのテーマでは珍しく断言できます。水から出ないと宇宙には絶対手が届きません。ですが、地球では何系統かの生物が上陸を果てしいます。もっとも、乾燥した環境で一生過ごし繁殖できなければ真の陸上生物と言えませんね。カエルみたいに幼生(オタマジャクシ)は水の中で育つのは話にならない。その条件を満たすのは、種子植物、真菌類、真菌と藻類が共生する地衣、それと、動物では脊椎動物の有羊膜類*1節足動物の昆虫とクモ・ムカデの仲間です。軟体動物のカタツムリの仲間は微妙ですが除きましょう。ナメクジはもちろん除きます。

 さて、陸に上がるのが生物進化においてどのくらいの障壁になるか考察しましょう。上に述べた通り、結構多系統の生物が上陸しています。すると大したことはないのか。しかし、動物では2系統(脊椎動物節足動物)のみ。しかも、外骨格の節足動物は致命的な弱点を抱えています。それは脱皮でしか成長できないこと。あまり体が大きくなると脱皮後、まだ体が固まらないうちは重力に耐えられないのです。水中なら浮力があるので問題ありません。よって体の大きさに制限がつくわけです。SFでよく出る巨大な昆虫は存在できません。といっても、古生代石炭期には体長70cmのトンボがいたから、上限はそれ以上です。今の昆虫が小さいのは、体表の気門から気管を通して呼吸する仕組みからきています。体が大きくなると気管も長くなり、ガス交換ができなくなります。石炭期は酸素濃度が35%もあったので大きくなれたのでした。

 体が小さい生物でも知性を発達させられるか。ある程度以上複雑な神経系を持つ必要があるので、あまり小さいと知的になれないと思われます。しかし、前にも書きましたが、集団で知性を発揮する可能性もあります。実は、計算機科学の分野ではパーティクルスォーム最適化(PSO, 群集団最適化)と呼ばれる一連の計算法が研究されています。初めに出たのはアントコロニー最適化で、これはアリさんが巣から出て餌を探すとき、良い餌がある場所に行ったアリがたくさんフェロモンを残し、他のアリがそこを辿って行くうちに一番良い餌場への行列ができることをモデルとした計算法(アルゴリズム)でした。結構良い結果が出たので、真似してハニービー(ミツバチ)最適化、昆虫は嫌いだからグレイウォルフ(灰色オオカミ)最適化など類似品が多数できています。実は、私はパーティクルスォーム最適化は全部嫌いなのですが、これは今回置いておきます。実際の小型生物が集団として賢くなれるかですが、これはアリさんが行列するくらいが関の山と思います。問題は情報伝達の速度が致命的に遅いこと。アリさんとアリさんが角突き合わせるか*2風に乗ってフェロモンが香ってこないと情報が伝わりません。これも前に書きましたが、自然界を操作する複雑な装置を作るには、物理法則で決まる自然界の時間尺度(重力で物が落ちる時間など)より、余裕で早い認知能力が必要でしょう。

 まとめると、

  1. オゾン層が形成されているなどの条件が整っていれば、陸上に進出するのはそう難しくはない。
  2. 知的能力を進化させられる可能性を持った生物群が上陸する必要がある。
  3. 上の条件は前回の議論に該当する。

ということで、前回と同じく星一つ⭐︎くらいの困難さかと思われます。

*1:哺乳類と爬虫類

*2:触角ですが