dd50ee70’s blog

計算機科学を中心によしなしごとを

推薦入試の面接

 これから何回か、試験とか評価について書いてみようと思います。人あるいは組織、事業、成果などを評価することは大切だけど難しい。評価する側になると急にえらくなってふんぞりかえるのはいただけない。適切に「良い」「悪い」を理由をつけて評価するには謙虚な気持ちが大切です。

 

 富士通の「研究所」から中京大学情報科学部に移った私は、若造のくせに入試委員と言う大層な役を任されました。私立大学にとって学生確保は最重要課題、推薦入試を含む多彩な入試を行い学生を集めます。推薦入試では小論文と面接を課していました。しかし、面接の時間は短く、受験生の「本音」のところまでは聞けません。「ペーパーテストでは測れない能力において煌めく学生を選ぶ」という、当時*1よく言われていた推薦入試の売り文句(建前!!!)を実現できません。そこで、同僚の先生方や事務方と相談して自己推薦という入試方式を、これまでの推薦入試に加えて設けました。受験生が「俺は(私は)こういう点で煌めいている」ことを2000字程度の自己推薦書にまとめて申告します。面接では30分くらい時間をかけて、自己推薦書に基づき質問します*2。その時、受験生は自分の作品や成果をプレゼンテーション*3してもよく、またサンプルを持ってきても良い、できるだけ対応します、という試験です。フタを開けてみると、制度について誤解している受験生もいましたが、本当に煌めいている学生を何人か見つけることができました。中京大学は5年ほどでやめたので、その後については直接は知りませんが、自己推薦で入った学生の中には卒業後も大いに活躍している人がいると風の便りに聞いています。

 

 中京大学から富山県立大学に移っても、推薦入試の面接はやりました。富山県立大学では各種の役は輪番で回るから4, 5年に一度当る感じです。ここでも面接の時間は10分しかなく、しかも質問事項があらかじめ決まっています。さらに、受験生が提出する志望理由書(400字くらい)は試験当日の朝にならないと見せてもらえません。「ペーパーテストでは測れない能力において煌めく」かどうか試す質問はまずできません。それでもなるべくいい学生をとるべく、少ない質問機会を工夫したり、こいつは平凡だから点を低くして、「煌めく」学生のために高得点の余地を残そうとか、苦労しました。しかし、あるとき悟りました。こんな田舎の三流大学に「能力の煌めく学生」が受けに来るわけない。それからは受験生皆さんにいい点をつけました。もっとも、全員同じ点にすると、「こいつサボっているな」とにらまれますから、元気のいいのには少しいい点を、覚えてきた応答しかうまく言えないのは少し悪い点を付け(±3点くらい)、いかにも採点したっぽく整えました。

 

 長年勤めた富山県立大学を悪くいうつもりは毛頭なく、推薦入試で「ペーパーテストで測れない能力において煌めく学生」を見つけるにはそれ相応の準備と手間をかける必要があると言いたい体験談です。建前を言えば、学校推薦では高等学校長が人物・学力を保障して推薦するのだからそれを信用してみんな受け入れる*4、自己推薦やアドミッションオフィス入試では時間をかけて選考し、ペーパーテストで測れない能力、活動実績、本学の理念との適性などを評価するのが理想です。しかし、昔から推薦入試は「年内に結果が決まる早めの入試」でした。昔は文部省(当時)は「推薦入試では学力試験は望ましくなく、小論文、面接を重視せよ」、とお達しを出していました。今は文部科学省になったからか「推薦入試でも合格者の基礎的学力が担保できる選考をせよ」と指示しています*5。私は、このような建前と本音がかけ離れた状態で評価が行われのは極めてまずいと考えます。

*1:昭和から平成に変わる頃

*2:事前に自己推薦書を読み込み、質問事項をまとめ、同室の面接者の間で共有しておいた

*3:当時はPowerPointはまだないが、PCでデモすることはできた

*4:推薦に値しない生徒を送ってきた高校に対しては、次から合格させない

*5:推薦入試がいわゆるFランク大学の学生確保に使われ、フリーパス状態になっているとか・・・という状況に応じたお達しです