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計算機科学を中心によしなしごとを

解説、ヤベー小説 (教育プログラムの評価)

 前回の記事「ヤベー小説」を自分で解説するアホな記事です。しかし、JABEE知名度が低い、と言うかほとんど0なので、あえてやります。

 前回の記事はワシントン協定JABEEを除いて全て架空の話です。全くの架空ではなく、似たようなことがそのうち起こるかもしれないと考えています。鍵は東南アジア諸国を含む新興国です。新興国の優秀な学生は先進国の一流大学に留学したがります。卒業後はそのまま留学先で就職することが多いでしょう。これでは人材の供給元になるだけて、自国の一層の発展に寄与しません。先進国の企業が進出したり合弁事業で工場はでき、生産ラインの技能者層は厚くなった。だが、ライセンス料を取れる新技術やサービスを開発できる一流の技術者は自国に育たない。と言う状況が考えられます。と言って、歴史・伝統・実績の三拍子揃った先進国の一流大学に対抗できる教育機関は一朝一夕にはできません。

 これに対し一発逆転の可能性を秘めているのがワシントン協定です。ワシントン協定参加の技術者教育認定機関を作り、自国大学の学科を認定すれば、次の効果を発揮できます。

  1. そこを卒業すれば、先進国の技術者教育と同等であることが保証される*1
  2. わざわざ留学することはない。
  3. 政府のプロジェクトや企業の参加・雇用条件に「ワシントン協定参加教育認定機関認定のプログラム修了者」(長いので「ワシントン協定修了者」にする) と言った条件をつければ、就職先も保証される。

となるとヤベー小説のようなことが起こるかも知れません。

 そこまで行かなくても、「技術者の仕事をするのはワシントン協定修了者」が世界の常識になる可能性は大いにあるといえます。実際、JABEE認定を受けている教育プログラムは実に丁寧な密度の高い教育をしています*2。日本でJABEEが始まって20年弱です。あと10年、長くて20年のうちにはJABEE認定教育プログラム修了生の活躍が見える形になってくると考えられます。しかし、今のように社会のJABEEについての認知度が低く、認定教育プログラムも少ない状況では「技術者教育の世界標準」に乗り遅れる、下手すると「技術の世界もガラパゴス化」の恐れがあります。

 バブルが弾けて就職氷河期と言われた1990年代中頃だったか、大卒就職戦線で大学・学部・学科を(暗黙に)採用基準に入れるのはダメだ。というマスコミの論調が流行ったことがありました。これは大学教育をバカにした、タメにする話としか思えず、少なくとも技術者の求人では学部・学科の指定はあって当然でしょう*3JABEEの認定では教育プログラムが学習・教育到達目標を定め、全ての修了生がその目標を達成していることを保証する仕組みになっているか審査します。学習・教育到達目標は単に知識を求めるのではなく、技術者の社会に対する責任など技術者倫理、社会の要求を解決するデザイン能力、自主的・継続的に学習する能力、チームで仕事をする能力、など技術者に求められる素養を広くカバーしなければいけません。しかも、具体的に水準も含めて設定することが必要です。JABEE認定プログラム修了生は「こんなことがここまでできる」と保証されています。JABEE認定の大学、学部、学科出かどうかは採用に際して大いに参考になると思いますが、採用担当の方々いかがでしょうか。

*1:ワシントン協定に参加するには国際基準に基づいて教育プログラムを認定しないといけない。認定機関自体がワシントン協定の事務局により審査される

*2:実は私はJABEEの審査員をなんども努めたことがあり、内実はよく知っています

*3:学閥なんぞがあって、その強化のために大学、学部を気にして採用するなどというのは論外です